初めての受診でも緊張なさる必要はございません。お気軽にご相談ください。
「糖尿病は失明する可能性のある病気です!」大事なことなのでもう一度繰り返します。
国内の患者数950万人、強く疑われる人、可能性を否定できない予備軍を含めると2,000万人以上と推計されている「糖尿病」。しかしそのうち治療を受けている人は僅か270万人(13.5%)で、9割近い人が未治療のまま悪化を続けていると言われています。
糖尿病では、初期の高血糖状態では自覚症状がほとんどないことから、治療の中断者や未治療者も少なくなく、そのことが重症化や合併症を発症させる一因となっています。糖尿病が高血圧や高脂血症などとともに、「サイレントキラー」と呼ばれる所以です。
糖尿病から発症する3大合併症といわれるのは次の3疾患です。
このなかで「目」に関連する疾患は、①糖尿病網膜症ですが、他にも白内障、虹彩毛様体炎、虹彩ルベオーシス、さらにそこから緑内障、角膜症などの続発も認められています。
糖尿病が注目され始めた当初から、「病態が悪化すると視力を失う」といわれてきましたが、これは必ずしも糖尿病の怖さを表す短絡的な戒めとはいえません。事実、血糖コントロール等の全身管理や眼科領域の治療技術が進歩した現在でも、約18万8,000人に上る成人後の失明者(良い方の視力0.1以下)数において糖尿病網膜症は緑内障に次ぐ第2位の約20%を占めます。また、失明には至らないまでも慢性化した視覚障害による日常生活への支障は免れません。
でも、「糖尿病がどうして目に影響を!?」と思われる方も多いことでしょう。網膜とは眼球奥の内側を覆っている膜状の組織で、瞳孔(絞り)を通ってきた光が焦点を結び視覚情報に変換する、カメラに例えるとフィルムの役割を果たしています。この網膜には機能を保つための細かい血管が密集していますが、網膜の血管は高血糖の影響を受けやすく、遂には血管がボロボロになって閉塞(つまり)や出血、強い浮腫(むくみ)などを引き起こします。その結果、網膜が光を感じられなくなり見え方が悪くなります。これが糖尿病網膜症です。
糖尿病の重症度や血糖コントロールなどによって個別差はあるものの、糖尿病網膜症の有病率は糖尿病患者の約15%、糖尿病の発症から15年後では約40%とされています。また、同じ生活習慣病の高血圧や高脂血症を伴う場合では、糖尿病網膜症の進行がさらに早まる傾向が明らかです。
糖尿病網膜症の進行ステージは以下の3段階に分類されています。
また、上記の3段階とは別に黄斑の浮腫(むくみ)によって急激な視力障害を起こす糖尿病黄斑症(糖尿病黄斑浮腫)があります。黄斑の異変は、増殖糖尿病網膜症の段階にまで進行してしまった人にだけ発症し失明に及ぶ場合が多いと思われがちですが、決してそのようなことはなく、初期の単純糖尿病網膜症の段階でも見られ、時にはこれで失明に至るケースも少なくありません。
自覚症状が現れないままに進行する疾患だけに、糖尿病網膜症が疑われる場合は眼科での専門的な検査が重要で、他の疾患と同様に早期発見であればあるほど治療の効果は高まります。
当院での糖尿病網膜症検査は、一般的な視力検査、眼圧検査のほか、光干渉断層計(OCT)を用いて網膜の断層面を描き出し眼底組織を詳しく調べる網膜断層検査を行っています。この精緻な検査によって目の状態を把握し、患者さんに正しく状態を理解をしていただいた上で適切な治療法を選択することができます。
かつては眼科での治療が困難とされた糖尿病網膜症ですが、レーザー光凝固術、さらに硝子体手術の普及で進行のステージに合わせた治療へのアプローチ法が増えました。現在では、病態の進行を遅らせるだけでなく、黄斑部さえ守り切ることができれば視力を回復させるケースも増え、早期症状での適切な治療によって失明にまで至ることが防げる疾患になってきています。しかしこれは、早期に適切な検査を受け、適切な治療を受けた場合のみです。
こうした治療を受けることで、一定の視力が維持されるなど病状が安定した状態を増殖停止網膜症といいます。しかし、それは疾患の完治ではなく寛解状態(一時的な足踏み状態)であり、活動を休止した新生血管や増殖膜が再び進行し始める可能性があります。ですから、治療後も血糖コントロールや網膜循環改善薬等を継続し、定期的に眼科を受診されることが大切です。眼科における糖尿病網膜症の治療技術は単なる「失明の防止」から「より良い視力の維持」へと確実に進んでいますが、これには患者さん自身の治療への強い意志と、私達眼科医との強い信頼関係が必要です。
糖尿病では内科での治療(主に血糖コントロール)に終始し、眼科への受診が疎かになっているケースが多々見受けられます。前述のとおり、糖尿病網膜症は自覚症状に乏しく、視力低下や飛蚊症などの症状が現れた段階ではすでに手遅れなほど重症化している可能性が高くなります。その可能性は失明のリスクと同義語だと理解することが大切です。
糖尿病治療ガイド(日本糖尿病学会刊)では、たとえ網膜症のない正常な目の状態であっても1年に1回の眼科受診を推奨しています。ましてや、すでに小さな点状・斑状出血が認められる場合は、数カ月に一度の眼科受診は必須で、ここをしっかり守っていただければ適切なレーザー治療のタイミングを逃すことはありません。自分の目は、自分自身で守ることができるのです。
糖尿病での目の放置は、間違いなく合併症を進展させてしまいます。内科疾患に主眼が置かれる通常の人間ドックでの眼底検査は網膜の一部に限定されていますので、眼科での定期的な検査を受け、ご自身の目の状態を正しく認識し、症状に合った適切な治療を選ぶことをお勧めします。
当院では、眼底カメラで撮影した眼底出血の写真や、OCT検査による網膜(黄斑)浮腫の断層写真を添付した紹介状を送り、内科医と緊密な連携を図って治療を進めていきます。時には、当院から内科に治療に関する指示をお願いしたり、血糖、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)などのコントロール状況の問い合わせをしたりする場合もあります。
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